2020年度 青木ゼミ論用Repository
青山学院大学 地球社会共生学部 地球社会共生学科
青木怜/REN AOKI
指導教員 古橋 大地 教授
© Furuhashi Laboratory/Ren Aoki, CC BY 4.0
Medium:クロマキー合成を当たり前に誰でも使えるようにしたい
本研究ではクロマキー合成の課題と基本的な撮影方法を「動画」としてまとめ、グリーンバックを使った合成動画制作の際の参考になるようにする。クロマキー合成における課題として挙げられる「グリーンバックのしわ」や被写体に背景色が反射っしてしまう「色かぶり」、「髪のアウトラインが綺麗に抜けない」などの課題についての解決策を実践する。また、動画撮影後の編集における合成の質の高め方を複数の動画編集ソフト「iMovie」「Final Cut Pro」「Adobe Premiere Pro」「Davinci Resolve」「Filmora」で比較する。今回の題材をゼミ論で扱うことになったきっかけは2020年10月18日にオンラインで開催された「TEDxAoyamaGakuinU」において、スピーカーの動画をグリーンバックを用いて撮影をし、クロマキー合成を駆使してTEDxの動画を制作したことである。初めての試みであったため、様々な問題や課題があった。例としては、グリーンバックのしわや色かぶりなどである。また、動画編集ソフトを複数使い、編集をしたが、そこで解決できていない動画もいくつかあり、これらの問題を解決できなければ動画のクオリティを担保できないということで、今回のゼミ論においてはグリーンバック撮影とクロマキー合成の方法と課題の解決方法を整理し、誰でも合成動画を作れるようにする。
本研究は合成技術の一つである「クロマキー合成」における課題(シワ問題や色かぶりなど)となる部分を明らかにし、誰でもグリーンバックを使った動画制作を行えるように最低限必要なクロマキー合成の基礎知識についてをマニュアルとして纏める。2020年10月18日(日)に完全オンラインで開催したTEDxAoyamaGakuinUではスピーカー計9名をグリーンバックを使用して、プレゼン動画を制作した。そこでの失敗の経験から改めてどのような対策ができるかを考察し、実践する。この研究によって、教育現場におけるオンデマンド授業の質の向上やプレゼン動画を制作する際の課題の解決の参考になると考える。また、研究中に発見した新たな合成方法(Alpha Matting)という技術についても触れ、合成技術の進化についても考察する。
そもそも、クロマキー合成とは、キーイングという技術の一種で色成分(グリーンバックなら緑)を切り取るようなイメージである。クロマキーという名前は色彩という意味の「クロム」をベースに「キー信号」を使うからと言われている。色成分、つまり、緑の部分のみを切り抜くことで被写体を切り抜くことができる。また、グリーンバックやブルーバックが使われている理由は、肌色と補色関係にあり、映りが良く見えるからである。身近なところでは天気予報やプリクラなどで使われている。最近はブルーよりもグリーンが多く使われるが、グリーンはブルーよりも肌の血色が良く見えるという点やノイズが少なかったり、少ない照明でも明るく映るという点で多く使われている。また、人物の服装、小道具などと合わせてどちらを使うべきかを選ぶのが基本的である。そして、デジタル処理においてはRGBに合わせるのが最も効率が良いということでこの色が使われている。
合成技術の歴史は大まかに「フィルムカメラ時代」と「デジタルカメラ時代」に分けられる。フィルムカメラ時代での合成技術は「光学合成」という技術が使われていた。複数のフィルムを重ねて、切り抜きたい部分にマスクという黒い画像を切り抜きたい形に切り抜き、隠すという作業が行われていた。このマスクという技術は現在の動画編集ソフトにおいても「マスク」という切り抜き機能で残っている。このように光学合成時代では手間がかかる作業が行われていた。そこから、デジダル時代にシフトし、グリーンバックやブルーバックが使われるようになった。60年代〜70年代のウルトラマンでは、この光学合成を使って合成していた。ウルトラマンの映像を時代ごとに見ていくと合成の進化がわかり、初期の頃の映像ではマスクの黒い輪郭が残っていたりする。
- 髪の毛や体のアウトラインが緑がかってしまう
- 緑が肌や服に反射してしまう(グリーンかぶり)
- グリーンバックのしわが目立つ
- 自然に合成するには照明の加減が大事
クロマキー合成についての先行事例としては
この論文では、クロマキー合成時に立体に見えない問題を配置を駆使して立体に見える方法を考察している。今回のTEDxAoyamaGakuinUでは背景を「STYLY」というVR/AR/MRプラットフォームを使用し、作成したため見た目を立体にすることができたことで問題にはならなかった。
-麻野井祥明, & 伊﨑章典. (2020). 偏光板と位相差板を用いた新規クロマキー技術の開発. 映像情報メディア学会誌, 74(6), 1010-1013.
この論文では、グリーンかぶりにおいて被写体に緑が反射しないようにするために「偏光板」を使用して反射を軽減する研究が行われている。
クロマキー合成における課題や撮影時の問題点を整理し、その解決策を実際に動画で実践する。
- グリーンバックのシワ
- 色かぶり
- 被写体の輪郭に緑が出てしまう
これらの課題に関して以下の内容を踏まえて動画で纏める。
設置に関しては、しわを極力伸ばすように設置する方法を解説した。
また、「しわ伸ばし」に関しては3つに絞って試してみた。
- ストレートアイロンを使用して伸ばす
- 洗濯機で濡らしてみる
- 乾燥機で伸ばす
シワ伸ばしに関しては以下の文献を参考にした。
- 小野寺 理菜."超簡単!アイロンなし!意外なモノで洋服のシワを簡単にとる裏技7選". CaSyジャーナル. 2019/3/28. https://casy.co.jp/fblog/life/14171.html
- 小池敏文, 川村圭三, 大林史朗, 大杉寛, 鈴木好博, & 木村剛. (2008, March). 2103 ドラム式洗濯乾燥機の高仕上げ乾燥技術の開発 (要旨講演, 一般セッション: マイクロナノメカトロニクス). In IIP 情報・知能・精密機器部門講演会講演論文集 2008 (pp. 216-217). 一般社団法人 日本機械学会.
撮影時には主に「グリーンかぶり」に焦点をおいて撮影をした。クロマキー合成の先行研究で参考にした偏光板を置くことで緑の反射を軽減するという方法を応用して、画用紙を代用することにした。理由としては、反射してしまう緑の部分を隠すことができれば良いのではないかと考え、紙を置くことでも軽減できるのではないかと考えたからだ。
編集ソフトは以下の5つを使用し、ソフトによってクロマキー合成のクオリティがどのように異なるのかを比較し、検証する。
- Final Cut Pro X
- Adobe Premiere Pro
- iMovie
- Davinci Resolve
- Filmora
- カメラ: Nikon D5600
- 三脚:SONY リモコン三脚 VCT-VPR1
- グリーンバック:Emart 3.0×3.6m
- グリーンバックスタンド: Hemmotop 200×300cm
- 洗濯機:HITACHI bd-sv110fr-w
- ワンダム ストレートアイロン AHI-251 BK/WH
Final Cut Pro/微調整機能は「拡大/縮小 数値:-1」
Premiere Pro/微調整機能は「コントラスト 100%」
IMovie/微調整機能は「柔らかさ:真ん中」
Davinci Resolve/微調整機能「ペンツールで3回調整とDespillに✔️」
Filmora/微調整機能「オフセット 100%」
今回は、グリーンバック撮影において最低限必要な設置の方法、撮影の方法、そして、近年よく使われる主要の動画編集ソフト5つ
- Final Cut Pro X
- Adobe Premiere Pro
- iMovie
- Davinci Resolve
- Filmora
を使い、動画で解説した。そして、今回はグリーンバック撮影、クロマキー合成において失敗に繋がってしまう「しわ問題」について深掘りし、しわの伸ばし方についてを考察し実践した。
しわ伸ばしに関しては、設置時にピンと強く貼る方法やアイロンを使って細かく気になる部分を伸ばす方法、そして洗濯機を使った伸ばし方を実践した。 結果としては最もグリーンバックのしわが取れた方法は、洗濯機の「スチームアイロン」という機能を使った方法であった。以下の画像のようにスチームアイロン後の状態はスチームアイロン前の状態よりも折り目が目立たなくなっている。
この方法はしわ伸ばしを簡単に行う際は有効な手段なのではないかと考える。しかし、これは洗濯機の機種によって相違するものであり、再現性は低い。動画で解説されている通りストレートアイロンによるピンポイントのしわ伸ばしは、強めのしわでも伸ばすことが可能だということがわかった。
スチームアイロン前
スチームアイロン後
しかし、そもそも動画編集後の結果として、設置時に強めに貼った状態での撮影において、クロマキー合成した場合、しわは気にならないことが確認できた。無料で動画編集可能な「IMovie」「Davinci Resolve」「Filmora(一部制限あり)」に関してもしわは全く気にならないくらいの仕上がりになった。無料ソフトに関しては別の機能面において問題があった。例えば、クロップや切り取りの際にサイズの調整が難しかったり、輪郭の微調整ができないなどの問題があった。
今回の撮影における「グリーンかぶり」については「画用紙あり」の場合と「画用紙なし」の場合とであまり差はなく、そもそも被写体に色が反射してしまう現象は起こらなかった。これは、照明の関係や被写体の洋服の特徴による可能性がある。
※今回の撮影では、効果のある照明を使用できなかったため、照明なしで撮影
この結果から「どのような服装がみどり反射しやすいのか?」について前回のTEDxAoyamaGakuinUやその他の例を見ながら明らかにする必要があるのではないかと考える。また、今回の撮影ではグリーンバックの設置は前回のTEDxAoyamaGakuinUでの設置方法と異なっているので、同じ状況で試す必要がある。
今回実践した「シワ伸ばし」としてはおおまかに「ストレートアイロンで伸ばす」「洗濯して濡らす」「乾燥機のスチームアイロン機能を使う」であり、結果からは乾燥機のスチームアイロン機能はシワ伸ばしに有効だということが分かった。アイロンがけやドライヤーでのピンポイントのシワ伸ばしはもちろん有効だが、グリーンバックのような大きな布を伸ばすには労力や時間コストがかかってしまうのでスチームアイロンのような方法があれば容易にシワを伸ばすことが可能である。しかし、洗濯機や乾燥機の機種によって性能が異なり、再現性があるかどうかは別の機種を使い試してみる必要がある。また、スチームアイロン後の持ち運びに関しても実践してみる必要がある。
今回のクロマキー合成において、「しわ」については動画編集ソフトで対応できた。今回使った動画編集ソフトは「Final Cut Pro」「Adobe Premiere Pro」「IMOVIE」「Davinci Resolve」「Filmora」の5つである。ある程度のシワであれば有料や無料に関わらず編集機能によって問題なく解消できる問題であった。今回以上の「しわ伸ばし」の必要はないと考えられるので、動画編集におけるクロマキー編集においてはどれくらいの「しわ」ならば動画編集で対応できるのかを検証すべきだと考える。最低限の必要な「シワ伸ばし」の基準を知ることで今後スムーズにグリーンバック撮影をできるようになると考える。